エッグカレー・コンソメスープ・牛乳・フルーツ白玉
敬和生は落とし物をよくする。教務室前のガラスケースには、イヤホン、マスク、ひざ掛け、文庫本などの落とし物たちが、持ち主が現れるのをじっと待っている。なかには、眼鏡、ペンケース、教科書、ノートといった、おいおいそれなしでどうやって授業受けてるの?というものもある。当然、全ての落とし物には記名がない。
この落とし物たちは、生徒が持ってきてくれるパターンが多い。中には、いつ、どこで拾いました、と報告のメモをつけて持ってきてくれる男子もいる。そこには落として困っている人への思いやりが感じられ、なんとも敬和生らしい慈愛に満ちた行為だなと感心する。少しでも手がかりがあれば持ち主に帰る確率は上がるからだ。
以前、未使用のホッカイロが届いたことがある。学習塾の名前にメッセージが手書きされた付箋がついていた。直前の入試にお守り代わりに持参したのだろう。拾った敬和生も、落とした本人が悲しんでいると思い、届けてくれたので、4月に年度が替わっても展示しておいた。すると、新入生女子が「このケースのホッカイロ私のです。」と言いに来た。無事合格していたのである。
こんな想いの詰まったガラスケースの前に、今日も真面目そうな男子生徒が立っている。「何か落と物ですか?」と私が聞くと、彼は「…はい。ちょっと前に『やる気』を落としてしまって…」へっ?と戸惑いながら「そいつは届いてないなぁ」「やっぱり…。自分で見つけるしかないっスね」「そだね」敬和は今日も平常運転である。
(S・K)