ポークカレー・グリーンサラダ・コンソメスープ・牛乳・ヨーグルト
現代文の教科書に井上ひさしの「ナイン」という作品がある。1983年頃の東京は四ツ谷駅前の新道商店街にある中村畳店が舞台の一つ。20 年前にも中村畳店で間借りをしていた「私」は、久しぶりの新道商店街が飲み屋や食べ物屋、喫茶店ばかりになってしまった様子を「厚化粧の、他人の懐中を当てにしないとやって行けない、何だか脆い通りになってしまった」と嘆く。
小説の本筋とは違う、この何気ない章段を思い出したのは、今の日本の現状と重なるからだ。新自由主義経済を推し進め、すべての価値は市場原理で測り、市場から見放されるのは自己責任と言われた。在庫や余剰は悪とみなされ、100%稼働こそ素晴らしい経営だと思われてきた。
ところが、COVID-19はそれらの欺瞞をすべて曝け出したように思う。拠点を海外に移した製造業は、マスク一枚すら自分達の思うようにならない事態を招いた。稼働率を上げるため余剰を削られ続けた医療機関は、一度パンデミックが起これば、たやすく崩壊してしまうことが分かった。
このウイルスは、かつての大流行がそうであったように私達の生活を大きく変えるかもしれない。会社に通う、学校に通うのが当たり前ではなくなるかもしれない。農業、工業は再び従事者を増やし、国内の小さなコミュニティ相手の商売に回帰するのではないだろうか。
カレーを無心でほおばる生徒に、「新たな暮らしの創造は君たちにかかっているぞ。」と思った、6月下旬である。
(S.K)