中華おこわ・酢豚・ワンタンスープ・牛乳・杏仁豆腐
今日の酢豚とおこわは絶品なんてもんじゃなかった。
でも、今日はその話じゃない。
数日前のランチのエピソードを紹介しよう。
おれとN先生は、早ランチに向かった。
その日はテストだったので、4時間目終了後がランチ。
おれたちは試験監督がなかったので、誰もいないランチホールでゆっくりとランチを楽もうと思った。
その日のランチはフライドチキンだった。
おれは切実に普通は一個のフライドチキンを二個食べたいと思った。
そこでNに言った。
「おい、フライドチキン、二個くれって頼んでみてよ。」
「そんなの、先生が言えばいいじゃないですか」とNはしり込みする。
「馬鹿、おれは年寄りだ。(55歳)そんな恥ずかしいこと言える訳ねえだろ。」
(ちなみに四十男のNはおれのかつての教え子だ)
Nはしぶしぶ調理員さんに声をかける。
「今日は大雪で、ずいぶん生徒が学校に来れなかったみたいですよ。」
そこから入ったか!さすがに普段キリスト教を説く男は違うな。おれは心の中でうなった。
調理員さんはしばらく何のことか分からなかった。
おれ達は必死でもの欲しそうな表情を浮かべる。
「チキン、二個食べますか?」
「あざーっす!」おれたちは声を揃えて叫んだ。
こんな幸せってないよな。
普通一個のフライドチキンを二個食えるなんて、ないよな。
おれ達は幸せとチキンをかみしめていた。
するとそこへ、同じ宗教科のYがやってきた。
見るとチキンが二個のっている。
「あれ、お前、何でチキン二個なんだよ?」おれは思わず叫んだ。
するとさすが宗教家のYは、あわてず騒がず、しれっと、「もう一つください、と言いました」と言った。
おれは逆上し。「お前な、おれ達はな、チキン二個もらう為に、今日は大雪で…って所から入ってだな、必死で目で訴えてだな…要するに、ものすごく苦労して二個もらったの。なんでお前が、あっさり、『もう一個ください』なんて言えるんだよ!」と叫んだ。
しかし牧師のYは少しも動じず、うっすらと笑みを浮かべた。
ところへ、国語科の新任Wがやってきた。
見ればWの皿にもチキンが二個!
「W!どうしたんだ、そのチキン!」おれは我を忘れて叫んだ。
「普通に調理員さんが二個くれました。」Wは何の屈託もなく言う。
「お前、頼んだのか?」
「いえ、普通に、二個くれました。」
「お前なあ、お前がどうしてチキン二個もらえたのか分かってんのか?そこには先輩方の苦労がなあ!並々ならぬ苦労がなあ…それをお前は何にもせずに…お前は新人のくせにずうずうしいんだ!そのチキン、一個おれによこせ!」おれはこう叫ぶと椅子から立ち上がった。青ざめるW。
「先生、55歳でしょ、もうじきおじいちゃんになるんでしょ。恥ずかしいですよ…たかだかフライドチキンで…」
Nが悲しそうな目をしておれに言った。
おれは我に返った。
そして唇をかみ締めながら、椅子に座った。
本当に、恥ずかしい…
(T.H)