ドライカレー・チーズサラダ・コンソメスープ・牛乳・ヨーグルト
友愛館の長い玄関を抜けると、そこはインドであった。カレーの湯気でメガネの底が白くなった。ドライカレーである。すでに香辛料が鼻腔を刺激している。一口、口に運ぶ。瞬間、カレーの圧倒的旨味が脳天を貫いた……。
カレーを食べるとき、人には覚悟が必要だ。カレーを食べる者は常にカレーに食われる危険を背負う。しかし私は飲み込まれた。この混沌たる黄金の渦の中に。レーズンやコーンのフルーティーさが食欲を加速させる。サラダの瑞々しい食感がオアシスとなって更なるエネルギーを生む。汗が流れた。だがそれが何だというのだ。ガンジス川だって清濁併せて流れているじゃないか。私はカレーを食べている。誰にも邪魔させない。人間に残された最後の自由、それはカレーを食べる自由だ。最早何を言っているのか分からない。既に思考はカレーに侵略されている。シャーマンが繰り返し祈りの言葉を唱えるように、カレーを口に運ぶというルーティーンを通して高みへ昇ってゆく。イギリスはインドを植民地支配したが、カレーはイギリスの食卓を支配した。文化の伝播を防ぐことは誰にも出来ない。また一口、カレーを食べた。私がカレーを口に運んでいるのか、カレーが口に運ばせているのか。主体と客体は入り混じり、認識と現象が交差し、スパークし、遥かなエルドラドへ――。
しかし、皿は既に空だ。脳がクールダウンし、再び世界ははっきりとした輪郭を取り戻した。ほどよく汗をかき、リフレッシュした私は席を立った。カレーを食べる前の私とは、何かが変わっているはずだ。
(M.M)